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GEのArcam、SLM Solutionsの買収計画発表について
2016/09/13
2016年9月6日にGEの子会社で航空機エンジンメーカーであるGEアビエーションが、「Arcam社」と「SLM Solutions社」の買収を計画しているという発表を行った。買収予定金額は両社で14億ドル(日本円で約1400億円)現在、SLM Solutions社の株式の約30%は取得済みであり、TOBによる買い付けを行っている模様。
今回、GEの買収計画の発表は金属3Dプリンター業界にとってはビックニュースであり、今後、この買収劇をきっかけに業界構図が大きく変化するのではないかとする見方が出始めている。
GE Aviationは世界的にみても金属3Dプリンターのビックユーザーであることは誰の目にも明らかであり、これまでに航空機分野の金属積層造形品の採用検討を積極的に推進していた企業である。同社のこれまでの経緯を見ると2012年には金属の積層造形技術において高い評価を得ていた「Morris Technologies社」を、また2013年には同じく金属積層造形技術を得意としていたAvio社の航空機部門である「Avio Aero社」も傘下に置く等、有力な金属積層造形会社を内部に取り込むことによって、ロールスロイスやプラット・アンド・ホイットニーといった競合メーカーとの差別化を図ってきたのである。
そもそも、航空機分野において金属積層造形技術が深く浸透していった背景としては、トポロジーの最適化等によってこれまでにはない斬新なデザインによって軽量化の実現や部品点数の削減によるモジュール化が進展するといったメリットが得られることにある。更に、そのことによって、全体として部品のエンジニアリングや製造工程を短縮することが可能になり、結果として会社の収益が改善するという好循環が生まれることにある。
金属積層造形のメインプレイヤー(ユーザー)と言っても過言ではないGEが、今回あえて金属3Dプリンターメーカーを手中に入れようとしているのか。考えられる理由としては、”装置を自社ニーズにマッチングさせるために独自にブラッシュアップさせていく”ということである。今回、買収を計画している2社は異なるタイプの金属3Dプリンターを製品化しており、ArcamはEBM(電子ビーム)方式を、また、SLM Solutions社はDMLS(レーザー)方式となっている。EBMとDMLSは造形品質、造形速度に各々メリット、デメリットがあるが、いずれもその特徴を活かし適用用途の見極めを行った結果、実際の航空機部品として採用が進行中である。その中でGEはこれまでユーザーとしての立場から自社で検討した積層造形品を製造するにあたり、よりマッチングした装置(金属3Dプリンター)への改良点をいくつかメーカーにリクエストしていたと思われるが、今回の買収計画により、装置のノウハウを直接的に得ることができるのである。中でもSLM Solutions社は4本のマルチレーザーを商品化しており、その生産性の高さが本格的に航空機部品の積層造形の量産化を目指すGEとの思惑と合致したものと思われる。更にGEにとっては本業の航空機エンジン以外にも、Arcamがこれまで実績を積み重ねてきた整形外科インプラント(人工関節)分野へビジネス進出する足掛かりにもなると思われる。
今後の展開については予測の域を脱しないが、航空機業界向けに関してはGEは買収後、装置の販売を行わないのではないかと思われる。もちろん、航空機分野で培われた厳しい要求基準をクリアすることは、自動車をはじめとする他の産業分野にも展開しやすくなることから、これらの分野での外販は今後も継続していく可能性が高い。一方で、ロールスロイスやプラット・アンド・ホイットニーをはじめとする競合メーカーにとっては、Arcam、SLM Solutionsから装置を購入することが困難になることが十分予想される。現在、欧米系の金属3Dプリンターメーカーの中には水面下で、買収に向けたオファーの話もいくつかあると聞く。中でも大手航空機ベンダーの動きは注視していく必要がある。
日本での影響に関しては、具体的には代理店の扱いがどのように変化するかということになるのだが、現段階では特に何も発表されていないようである。
上記の詳細についてはMAMトレンド 2016年秋号で掲載予定